2014年 10月 13日
正藍型染師、田中昭夫さんをご存じだろうか。 ひたすらに、阿波の藍で型染めをやり遂げた職人。 川口の紺屋、御年79才。 染布と長板、合わせて30kgを持ち上げなくてはならない。 人並みの力でできる仕事ではなく、体力は限界だった。 さらに震災での落瓦が、気力の失せるきっかけになった。 そんな田中さんが引退される。 1980年刊、35年前の雑誌でさえも、この扱いだ。 効率を求めず、ほんものを求め、家族さえ犠牲にし、時代に逆行とも言える仕事。 まあ、男前なこと。 型も自分で彫ってしまう。 こちらは39年前。 当時から絶滅危惧種とささやかれながら、2014年の今日まで残っていたのも奇跡。 用布を探し、柄の型彫りもし、長板に型つけし、九ツの藍甕で正藍染めをほどこす。 藍の美しさを目一杯出すために、藍が食いつきやすい手紡綿・麻・科布などの用布を探す。 これがなまなかではなかった。 時代に合わない、採算も合わない。 継ぐ人もない、ニーズもない。 もっと続けて下さい、などとのんきなことが言えるものか。 引退には十分なお歳だ。 十分やられた。 ありし日の雄姿もいまは昔。 型染作家の津田千枝子さんは、40年近く前(!)に田中さんと出会った。 田中さんの仕事場で、藍建て型彫りの短期講習会に参加した。 若い津田さんは遠巻きに見ていただけだったが、縁あってしばらく通うことになった。 技術の先にある、もの作りの姿勢を学ぶことができた。 その後型染作家になった津田さんにとって、かけがえのない出会いだった。 以来、事あるごとに田中さんの元を訪ねた。 もの作りの指針である、無骨な職人を慕ってのこと。 しかし、年を追うごとにしぼんでいく田中さんに寂しさを感じていた。 今月から来月にかけて、川口市立ギャラリーで田中さんの展示がある。 案内に同封されていたのは、死んだように覇気のない近況と「引退」の文字だった。 それでも最後の小さな花火が上がると知る。 ギャラリー展と同時開催、自宅仕事場でも作品展示をするという。 自分ちでもやると決めたのだ。 ただし、頑固一徹・職人気質と来れば、宣伝下手はお約束。 あまりにも知られていなさすぎ。 このままじゃ、だあれも来ない。 何の宣伝もしていないじゃないの。 知らなければ、見納められっこない。 プツンと終わる。 どうにかしたい。 藍がわかるとか、知っているとかは関係ない。 一人でも二人でもいい。 田中さんのような職人がいたことを、記憶遺産として見届けておいてほしい。 津田さんが立ち上がった。 そんな津田さんの思いに賛同した。 けろ企画と津田コンビは、ゲリラ広報活動を開始する。 たとえセンチメンタルと言われても。 川口の匠展 vol.4 麗のとき 2014/10/4(土)-11/16(日):川口市立アートギャラリー・アトリア 10:00-18:00 (土曜20時/月休み 但し祝日の場合は翌火休) 田中紺屋展 2014/10/14(火)-11/15(土) 13:00-16:00 (日/月休) 2014/10/31現在:やはり田中紺屋展はパンク中にて、開催日時を変更する相談をしています。このあとご来展をお考えの方は11/11(火)15(土)のツアー参加をご検討下さい。 川口アトリア展をご覧になり、駅東口バス⑪⑫番に乗って20分、自宅(田中紺屋)展へどうぞ。 もちろん逆もOK。(ちなみにギャラリーアトリアは4人展。いずれも目を見張る職人仕事です。) わたしは、本藍がどうの、インディゴがどうのとややこしいことはわからない。 わかることは、この人とこの人の仕事はほんものだということ。 仕事場奥の座敷で、長板中形と広巾染布の展示がある。 「やーやーどうもー」というノリでないのは、想像に難くない。 職人たるもの、正統派シャイボーイ。 仕事についてを尋ねれば、どんなことでもきっとまっすぐにお答え下さると思う。 だいじょうぶ、こわくありません。 藍の植わった仕事場前。 ピークはとうの昔に過ぎた。 勢いのある仕事場を想像してもらってはいけない。 瓦は落ち、持ち上げられなくなった長板が並び、道具もなにも雑然としている。 消えゆく仕事の最後はこうなるのだ、という現実がある。 ただ、まだ藍甕は生きている。 もちのろんで、田中紺屋入口に看板はございません。 みなさまどうか無事にたどり着けますように。 「お元気なうちにどこかで田中さんの展覧会をやっちゃおうよ」と、ラオス谷さんと津田さんは秘かなる計画を練っていたらしい。 けろ企画を巻き込んでの田中展を、いつかそのうち。 その計画は叶わなくなった。 小さな小さなゲリラ広報活動だけが間に合った。 これでおしまい。 ぜひお出かけ下さい。 こちらもご覧下さい⇒田中昭夫さん再び
by kerokikaku
| 2014-10-13 16:15
| 正藍型染師 田中昭夫
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