2014年 10月 31日
前回のつづきです。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 苗(ミャオ)族の住む貴州省山岳地域には何もなかった。 電気もガスも水道もない。 糸も布も染も道具ももちろんぜんぶ最初からつくる。 厳しい環境の中で子供を育てること、生かすことは容易ではない。 布目から悪いものが入らないよう祈りをこめて刺繍をする。 さらに独自の美意識と生来の器用さから苗刺繍が生まれた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ さあて、何年もかけて刺繍をし、ようやく衣装ができたとしよう。 着ているうちに少し傷んでも捨てはしない。 色が褪せたり弱った部分をつぎはぎしながら、大切に着続ける。 子供や若い女性用として最初は赤いものが多い(左)。 次世代では衣装をドボンと藍甕に漬けて真っ青に染める(中)。 さらに着続けると、藍が擦れ、いい具合のグラデーションになる(右)。 (左)→(中)→(右)の間は10年や20年ではないことは確かだ。 親子3代の手が入っているかもしれない。 では(右)の刺繍について。 皺繍(しわしゅう)と呼ばれるモコモコしたこの技法はどうやるのか。 まず、この道具を使って絹糸12本取りの組み紐を作るところから。 紐ができたところで、それを細かく折りたたみ、下布へ縫い付ける。 わかるけど。 わかったけど。 いやーん。 これはアップ画像で、実際は数センチの宇宙内のできごとなのである。 最初の画像をもう一度ご覧いただくと、こわさ100倍。 首の後ろがジーンとしてきた。 尋常な細かさではない。 目がくらみ、めまい激しく、ため息もとまらない。 「ミャオの仕事って、見すぎると気持ち悪くなってウェっとなりますよね」 決して言ってはイケナイ、しかし喉まで出かかったセリフを、苗族刺繍博物館館長ミズヨさんが先に言ってくれたので救われる。 横着して詳しい説明を省くが、穴ポコ段に見えるのは層になっているから。 断層、階層、建物みたいなジオラマを上から見たような。 それを組み合わせ… もうむり。 元レポーターだった経歴もあり、加えてミャオへの愛がドバドバ溢れかえっているミズヨさん。 説明力がすばらしい。 とてもわかりやすく、力強く、熱く解説してくれる。 たまたまご主人も同席されていたが、実はミズヨさんの苗族知識の師匠筋にあたると聞いた。 完全予約制で限定人数なのを納得する。 ちなみに、忘れてならないこと。 苗族の人たちは日がな刺繍をしているわけではない。 インフラ設備のない中、畑を耕し子供を育て、家事労働で一日中忙しい。 電気がないので夜は刺繍ができない。 そしてこれはお金儲けではない。 自分や家族のため、祈りのため。 合間にやっている仕事がこのクオリティとは。 言葉がない。 以前わたしは骨董屋の番頭みたいなこともしていたので、苗族刺繍はいくつも見てきた。 すごいのはわかったが通り過ぎていた。 「ジーンズに合わせたらおしゃれに着られますヨ」的なノリの価値観で販売もされていた。 その話をすると「そうかもしれないね」とここでは笑い話になった。 最初に言いわけしましたよね。 ひとつふたつを見せていただくだけで、あっという間に2時間が過ぎた。 写真を撮る余裕もなかった。 満腹のような、消化不良のような。 今日のところはこれで勘弁してやる、と心の中で負け惜しみを言い、再訪しないとどうにもならないことを十二分に理解する。 素晴らしいコレクションとコレクター。 この仕事が次世代へ繋がるための活動もされている。 クラクラになって苗族刺繍博物館を後にした。 また来るぜ。 ↓布茶レポートも合わせてどうぞ。 苗族刺繍博物館 苗族刺繍博物館再訪
by kerokikaku
| 2014-10-31 17:30
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