2015年 05月 17日
「正藍型染師 田中昭夫の布 頒布会」への道-9.0 型紙と再発掘
田中昭夫は30代半ばに「正藍染め」に特化することを決意し、本格的に型紙も彫り始めた。

一般的には、染めと型彫りは分業で、全てやりつくす紺屋はほとんどいない。

と、すまし顔で書き始めたが、知識の泉が浅すぎてギブアップ。
以下ご存知ゴーストラーターが的確に解説してくれた。
たいへんわかりやすいです。

昔からの染色職人の世界は、分業が多い。

例えば 友禅。
絵付師が下絵を描いたものを、糊師が糸目糊を置き、また絵付師が色差しをして、糊師が伏せ糊をし、引き染め師が地染めを行い、蒸し屋で蒸し、また戻って水洗いされて湯のしやに行く…といった具合。
もちろん、工房によっては一貫作業をするところもあるが、昔からのやり方は、基本は分業である。

長板中形の世界も同じ。
型紙は、彫り師が作り、型付けは型付け職人、染めは染め師、となっていた。
古くは、型付けの出刃ベラ一本持って、各地で仕事をした”渡り職人”が多くいたそうだ。

そのような染めの世界も、それぞれの技術だけでは食べていけなくなったか、現代ではむしろひとつの工房で、通して作業をするところが一般的になってきているようだ。

それでも、長板中形職人が型彫までするということは、まずない。
型紙は、型紙屋から買うというのが伝統のやり方。

翻って、田中昭夫。
「長板中形職人」というのが、本人の中心の肩書になるかもしれないが、型紙も自分で彫っている。

何故か?
田中は義理の叔父の家(型付け屋)で、まず型付け職人としてスタートした。
そこは様々な下職も請負うところだったので、場合によっては型彫りなどもすることがあった。

そして、婿養子に入ったのが浴衣を主に染める田中紺屋だった。
そのため「型付け、型彫、藍染」と、田中の修行は、運良く一貫して制作できるノウハウを自然に学んでいた事になる。

紺定を継ぎ、嘘のないものを作ると決心した後、有力な水先案内人が現れる。
それが、今までも何度も名前が出てきた大阪の三彩工芸社の故藤本巧だ。

藤本氏は、菅原匠氏を通して田中を知り、その気概を大いに買い、自分の集めた古裂を田中に見せ、この柄を作れ、こんな風に染めろと、次々と指示をだしたそうだ。

当然、型は自分で彫らねばならず、糊のあんばいも田中独自の工夫が必要となる。
藤本が送ってくる用布も、いわゆる長板中形用の浴衣地ではなく、表情も様々な個性あふれるものであった。
中には、粗々しいほどゴツゴツした科布とか、朝鮮の麻、手引手織の木綿布、越後の古い手績み大麻布…

当然、その布に合う紋様も、力強い唐草などが選ばれる。
そうして、田中の感性も磨かれていった。

布素材の持つ力に負けない田中の藍染は、用布まで考えたうえで、自身が彫る型紙によってひとつの調和を生みだす。

分厚くしっかりと糊置きされた紋様は、糊の土手のようになって藍の甕に入っていく。
その土手が、ギリギリ溶けかかるところで、糊際のかすかな藍のグラデーションが生まれる。

清々しく美しく色が引き立つ秘密は、田中の「型 、糊 、布 、染 」すべての工程が響き合い、どれもが最大限の持ち味を出しているからなのだろう。

今回、頒布会の展示のため、田中が彫った型紙を選んでいて、この大職人の凄さは「紋様、用布、糊、藍」の最終の総合的な完成が、自分の中でしっかりと描けているのだと痛感した。

世に認められるなどという事とは程遠い、己の求めるものを具現化するために、身につけた技の最大をいつも出しきって、自分が満足するためだけにここまで仕事を続けてきたのだと、今更思い至った次第である。


その型彫りとは、部屋に引きこもっての地道な作業。
ひたすら彫って彫って彫りまくった。
それは田中の性にも、手先の器用さにも合っていたのだと思う。

「でもさ、彫っている間は、金にならないんだよなあ」と。

しかし熱中していたことは間違いない。
100枚や200枚では済まない。

布巾に合わせて型紙の大きさを変えて彫っており、色版分も合わせるとトータルで500枚を軽く超すのではなかろうか。

そこまでやって何反も染めるわけでもなく、1-2反で終わることがほとんど。
狂気の沙汰だが、本人は実にカラリとしている。
純粋に面白かったのだろう。


反物の値段付けも終わり、「型紙も出したい」と言ってみた。

すると「オレは型紙を売るつもりないよ」ときっぱり。
仁王立ちになり、また口がぎゅっとなった。

「いえいえ、展示したいんです」と、了解を得て作業場へ移動した。
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1版用もあるが、主版+色版用もある。
勝手に触られてバラバラになってはたまらないらしい。
本人見張りの前で、一枚ずつ順番にめくり、いくつかをピックアップする。
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見事な型。
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このイカリと縄の柄、卓布として1枚あります。
その型がこちら。
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1つ作ればいいものを(と凡人は考える)、レイアウトを少し変えて2種の型を彫ったらしい。
ほんのちょっと違う型を何種類も。
そんなのばっかである。
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「てっさ」と呼んでいる白地の帯地(こちらは美山のちいさな藍美術館にコレクションされている)。
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これと同じ型かと思いきや、ふた回り位縮小された型が出現した。
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この染布はもうないとのこと。
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ベニバナの型紙も何種類も出てきた。
「ベニバナは心臓にいい」ので我々実行部のキツケグスリのために、ひとつを持ち込むことにする。
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鳩車の座布団カバーは頒布会に出ます。
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このあたりの大胆な唐草柄は、一番”焚き付けられて”いた頃の代表柄。
何パターンも出てきた。
渋紙の古さが物語る。
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DEE'S HALLの白い壁面いっぱいにダーっと飾りつけたいところだが、それはいずれどこかの美術館や相応な展示室にお任せしたい。
今回は一部を持ち込みます。

「ベニバナさ、大きくなりすぎちゃってさ」
「はぁ」

「天ぷらにしたら食えるかね」

我々とは違う次元のことが気になってしょうがない御大。
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板場の奥、進入禁止の(てか、誰も入らない)小部屋があった。
北向きに位置する2畳ほどの型彫り部屋。
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手に持った半纏はともかく、その奥の棚から麻布のハギレが大量発掘された。
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「そんなの、出すのかい?」とおっしゃるが、あーた、これ、超お宝っつうんですよ!

しかと抱えて、いそいそと作業に戻る。
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この細道がまたにおう。
何かが出る予感でプンプンしているが、いい加減にタイムアップ。
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吊られた染布さえ、見なかったことにしなくては間に合わない。

間に合わないよおおおお。
もう見ちゃだめなんだよおお。

お宝がどんどん発掘され、田中紺屋全体がパンドラ箱化している。
なんで今まで、と思ったが、今だからなんだね。
ははは、布茶幕の抱えた発掘お宝布の山よ。
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よさげな籠をいくつか拾い上げ、きれいに洗って天日干し。
以前、古民芸もりたで求めたという籠たちは、頒布会の什器として活躍する予定です。
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藍染講のための袱紗も複数出てきました。
塩瀬と羽二重生地にカタバミとキキョウのアレンジ紋。
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ポケットになっているものもあった。
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藍に関わる方にはたまらない逸品ではなかろうか。
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このシリーズ、ぜんぜん終わりません。


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正藍型染師 田中昭夫の布 頒布会
2015年5月21日(木) 5月22日(金)5月23日(土)

21(木)15-19時/22(金)11ー19時/23(土)11ー18時
※開催時間が各日で異なりますのでご注意下さい
会場:DEE′S HALL(表参道駅徒歩3分) d0182119_2348835.jpg 
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by kerokikaku | 2015-05-17 11:16 | 正藍型染師 田中昭夫 | Comments(4)
Commented at 2015-05-19 02:56 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by kerokikaku at 2015-05-19 12:17
おお、柳蛙様!
頒布会作業をしながら柳蛙さんのお話が時々出ますよ。その後お元気でしょうか。
イカリ柄はあの時発掘のの麻地卓布のみです。帯や着尺はないのが残念。ちょっと珍しい柄ですよね。
御大のこだわりによりレイアウト違いで2種類彫り分けていたなんて、呆れてみたり、恐れ入ったりです。
Commented at 2015-05-19 13:20 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by kerokikaku at 2015-05-19 13:58
柳蛙様
わーうれしい!!またお目にかかれますね。ありがとうございます。楽しみにしています。いい話(?)での話題ですのでご安心くださいませ!


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