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2014年 10月 31日
苗族刺繍博物館へ 2/2
前回のつづきです。
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苗(ミャオ)族の住む貴州省山岳地域には何もなかった。
電気もガスも水道もない。
糸も布も染も道具ももちろんぜんぶ最初からつくる。

厳しい環境の中で子供を育てること、生かすことは容易ではない。
布目から悪いものが入らないよう祈りをこめて刺繍をする。
さらに独自の美意識と生来の器用さから苗刺繍が生まれた。

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さあて、何年もかけて刺繍をし、ようやく衣装ができたとしよう。

着ているうちに少し傷んでも捨てはしない。
色が褪せたり弱った部分をつぎはぎしながら、大切に着続ける。

子供や若い女性用として最初は赤いものが多い(左)。
苗族刺繍博物館へ 2/2_d0182119_15303881.jpg

次世代では衣装をドボンと藍甕に漬けて真っ青に染める(中)。
さらに着続けると、藍が擦れ、いい具合のグラデーションになる(右)。

(左)→(中)→(右)の間は10年や20年ではないことは確かだ。
親子3代の手が入っているかもしれない。

では(右)の刺繍について。
皺繍(しわしゅう)と呼ばれるモコモコしたこの技法はどうやるのか。
苗族刺繍博物館へ 2/2_d0182119_15383138.jpg

まず、この道具を使って絹糸12本取りの組み紐を作るところから。
苗族刺繍博物館へ 2/2_d0182119_15421355.jpg

紐ができたところで、それを細かく折りたたみ、下布へ縫い付ける。
苗族刺繍博物館へ 2/2_d0182119_15432963.jpg

わかるけど。
わかったけど。
苗族刺繍博物館へ 2/2_d0182119_15454184.jpg

いやーん。

これはアップ画像で、実際は数センチの宇宙内のできごとなのである。
最初の画像をもう一度ご覧いただくと、こわさ100倍。

首の後ろがジーンとしてきた。
尋常な細かさではない。
目がくらみ、めまい激しく、ため息もとまらない。

「ミャオの仕事って、見すぎると気持ち悪くなってウェっとなりますよね」

決して言ってはイケナイ、しかし喉まで出かかったセリフを、苗族刺繍博物館館長ミズヨさんが先に言ってくれたので救われる。
苗族刺繍博物館へ 2/2_d0182119_17433217.jpg

横着して詳しい説明を省くが、穴ポコ段に見えるのは層になっているから。
断層、階層、建物みたいなジオラマを上から見たような。
苗族刺繍博物館へ 2/2_d0182119_17382719.jpg

それを組み合わせ…

もうむり。
苗族刺繍博物館へ 2/2_d0182119_17452828.jpg

元レポーターだった経歴もあり、加えてミャオへの愛がドバドバ溢れかえっているミズヨさん。
説明力がすばらしい。
とてもわかりやすく、力強く、熱く解説してくれる。
たまたまご主人も同席されていたが、実はミズヨさんの苗族知識の師匠筋にあたると聞いた。
完全予約制で限定人数なのを納得する。

ちなみに、忘れてならないこと。

苗族の人たちは日がな刺繍をしているわけではない。
インフラ設備のない中、畑を耕し子供を育て、家事労働で一日中忙しい。
電気がないので夜は刺繍ができない。

そしてこれはお金儲けではない。
自分や家族のため、祈りのため。

合間にやっている仕事がこのクオリティとは。
言葉がない。

以前わたしは骨董屋の番頭みたいなこともしていたので、苗族刺繍はいくつも見てきた。
すごいのはわかったが通り過ぎていた。
「ジーンズに合わせたらおしゃれに着られますヨ」的なノリの価値観で販売もされていた。
その話をすると「そうかもしれないね」とここでは笑い話になった。

最初に言いわけしましたよね。

ひとつふたつを見せていただくだけで、あっという間に2時間が過ぎた。
写真を撮る余裕もなかった。

満腹のような、消化不良のような。
今日のところはこれで勘弁してやる、と心の中で負け惜しみを言い、再訪しないとどうにもならないことを十二分に理解する。

素晴らしいコレクションとコレクター。
この仕事が次世代へ繋がるための活動もされている。
苗族刺繍博物館へ 2/2_d0182119_17435713.jpg

クラクラになって苗族刺繍博物館を後にした。
また来るぜ。


↓布茶レポートも合わせてどうぞ。
苗族刺繍博物館
苗族刺繍博物館再訪

by kerokikaku | 2014-10-31 17:30 | 情報として


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