2018年 06月 24日
カンフル注入-その2
実は黒幕、この事態を想定して「カンフル剤」を持って来ていた。
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何故ならば。

この播磨藍は、建ててからほとんど染めていない。
すると藍成分は残っているだろう。

本当のダメにはなっていないはず。
PH調整がうまくいかずにただ眠っているだけじゃないか、と分析していた。
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実験のため、バケツに藍をとる黒幕。

そこへ魔法の粉「ハイドロ」を振り入れた。

寝ている藍を起こしにかかる。
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藍がダメとなり、万事休すのリバ爺。

苦虫顔のまま、わけがわからずウロウロ。
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ハイドロを入れた藍バケツ。
白ハギレを藍に漬け、酸化させ、色を見る。

藍が目を覚ました。
ぱあっと青くなった。

それを見たリバ爺の顔もぱあっとなった。

バケツ実験が成功したので、藍甕2つにカンフル剤を投入する。
かきまぜて白ハギレを浸し、色をチェック。

しばし時を待ち、苦虫を向いて黒幕が言った。

「さあ、もう染められるよ、あとのお世話はいつもどおりでいいから」

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灰汁発酵建て一筋の田中紺屋こと、屋号「紺定」。

その歴史上、使ったことのないカンフル剤を投入した。

これにて、田中紺屋は純粋な発酵建てではなくなった。

もはや他に選択肢があろうか。
リバ爺の命がかかっている。

現在のリバマは、純血の正藍発酵建てを守る以前に「藍が建つ」ことが最優先。

と判断した。

※公表をためらったのでこのシーンの画像はあえて撮らなかった。
ヒヨヒヨに弱り切った田中さんの顔を撮ることも出来なかった。


「今後も藍を建てるようだったら、インド藍でやるのはどお?」

黒幕がふたたび提案した。
実際、黒幕もインド藍を使って染めている。

どお?と聞かれても答えようもない。
正藍蒅以外は使ったことがない。

田中紺屋はじまって以来の初めて尽くし。
よくわからずに困惑している。

そりゃそうだろう。

インド藍を播磨藍に足して、今まで通りの発酵建てが出来ると知って「うん」と了解した。

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お見事、黒幕。

黒幕だって、きっと逡巡したに違いない。

しかしこれこそが、順序だった、現実的で、建設的で、正しく、ヘルシーな善後策。

いいですよね、田中さん。
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ガラガラに痩せた御大。

12時に腹時計が鳴らないのは、普通じゃない証拠。
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でも型紙、もう少し引き上げたいんで、見せて下さい。
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これまで指一本たりとも触らせなかった型紙。

それを、御大自らあれもこれも、と。
うちらの泥棒引き上げに協力的。
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もはや、観念してるんだなあ。
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染めも彫りもする、稀有な型染師。
おびただしい型紙は500枚位あるだろうか。

同じ意匠でもちょっとずつ変え、何パターンも。

呆れるほどある。
熱すぎる情熱。

家族も世間も何もかも顧みず、正藍型染一筋でやってきた。
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さあ、ご本人承知の大泥棒作業は終わりました。
荷づくり完了。

うちらの逃げ足も相当早くなったっしょ。

「そうだな」
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お腹すきましたね。

田中さんのおごりで一緒にどうですか。
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そゆ時の足取りは早い。
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ねえ。

また痩せたけど、食欲ないんですか?
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ってことは、ないらしい。

とんかつソースを生姜焼きにたっぷりかける。
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一粒残さずごちそうさま。

ペロリが紺定印。
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じゃあゴチになりましょうかね。

ははは。

財布にもタナカの「タ」って。

笑えるね。
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え?

金入れるの忘れた、って。

おいおいおい。

小銭じゃ足りないですから。

もういいです。

まじ笑えない。

つうか、ありえないんですけど。
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困った顔したってダメですから。

ダメです。

るるは守って下さい。
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いいですか。

わたしの閻魔帳は、もう真っ黒ですよ。

きょうから赤の太字油性マジックにします。
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そうゆうの、ありえないですから。
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ぜったいに。
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ありえないですから!





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by kerokikaku | 2018-06-24 23:37 | 正藍型染師 田中昭夫 | Comments(0)


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